Komma usw.

背後にクロチネさんがいる。

永遠に愛するものなど無い、(愛するは可能動詞にはなれない)

 ひとが死んだので百合を携えて峠を越えたが、途中で陽炎が透明な棺を掲げて虹を渡ってゆくので、もう遅かったと思い、その百合は食べてしまった。
 たぶん悲しかったのだ。だが、私はひとを愛せないであろうと知っているので、悲しかったなどということは無いのだ。何度も云うように、世界で大切なものは分子、電子、核子である──この思想は不変である。愛しきものが私の愛を奪い取って男を選んできた日々からして変わらない──。

 死んだ友人が大切だった。
 しかし、ひとを大切に想うということが私には恐ろしい。
 路傍に座って抱えていた百合を口に入れた。植物のあじは慣れないもので、咽せるような花粉と百合の吐く蜜、吐き気を抑えて口に手を当てる。
 彼女のスウィートピーが大切だった。
 しかし、ひとを大切に想うということが私には恐ろしい。
 彼女がもう歳をとれない誕生日には、スウィートピーを食べよう。
 花に噎せこみながら決める。
 死んだひとに捧げたいものに、一種の物欲を混ぜないこと。
 死んだひとを永遠に愛することが私には恐ろしいので、私は墓に置く花を捜して、光を捜して、死んだあとまで。

 
 
 
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