「火は綺麗」小倉拓也
生きることは加速すること
沢山の時間が私たちの背後に幽霊となり
地べたを這う背を脚を後押しをする
その摩擦に焼かれて
私たちは火炎を上げながら
消し炭になる
∗
「そんなふうに生きなさい」と先生は言った
その教訓さえ生まれた時から
私たちの一部であった
∗
道徳の時間に読んだ三つの逸話は
どれもみな最後には
人が死んでしまう話で
この時代この国の大人たちは殊更
人は死ぬということを
子供たちに伝えなければいけないと
考えているようだった
私は子供だったけど
全ての子供がそうあるように
生まれつき大人でもあったので
私のなかにも幾ばくか
そんな義務が感じられ
反駁のため
人が死なない可能性を探ってみたりした
∗
「はい」という返答が
自らの喉から最も美しく響く時を
生徒らは聖歌隊のように
中空を見上げ待っている
先生は、次の逸話を教えてくれる
「はい」と答えるあなたは
生徒の中で一番綺麗な声をしている
私はそう思う
私はあなたの美しい発声を待ち望んでいる
∗
火と死の逸話は何のためにあった?
倫理のため?
生活のため?
説得のため?
懐柔のため?
それとも高揚のために?
たいくつを紛らわすために?
あらゆる意図と経緯を超えて
私はあなたの声を待つ
私は子供と呼ばれていて
けれども話の中の火など見えない
(2011.08.20 合評合宿 in Necotoco 提出作品/小倉拓也)

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