夏が来なかった。
夏が来ないまま雨が降り続き秋になるのではないか、ということだった。
だれもかれもストレスを抱え雨の降り続ける空を、もしくは地面を見た。
僕は一日中、図書館にいた。毎日、図書館で冷房に当たっていた。
夏は来なくても、どこもかしこも冷房まみれだった。
僕の家の近所にある図書館は手動で横に開かなくてはならず、ガラガラと音が鳴った。
それでも冷房が入っていた。
夏は来ない。
うしろ手で閉めるドア ドア開け夏の白い少女の後ろ姿が
冷房の効いた図書館には、白いボレロを羽織った少女がいる。
屋内なのに白い帽子を被っていて、俯いているので表情が分からない。
この冷房、彼女には寒過ぎやしないのだろうか。
図書館を一度出たが雨晒し、白いワンピースにはあまりに不釣り合いではなかろうか。
──そうなのか?
彼女だけが、彼女の場所だけが、彼女の季節だけが夏を持っていて、
そして、持ち去っていってしまうのだろう。