渚ちゃんは、ワインをかっくらう。帰宅したらささっと化粧を落として、フレッシュローソンで買った良い感じのチーズを齧りながら、ワインをのむ。グラスではなくて、麦茶をのむ為にあるようなガラスのコップでのむ。
渚ちゃんは泣かない。渚ちゃんは高円寺に住んでいる。そしてギターがじゃかじゃか弾ける。マンションの隣人は怖くない。マンションの隣人も、ベースの練習をするひとだからだ。反対側の隣の部屋にはシェパードを飼っているひとがいて、渚ちゃんはときどき出会い頭にシェパードを撫でる。
渚ちゃんはときどき泣く。
渚ちゃんはひとに叱られることに怯えない。
だからびくびくしなくていい。
渚ちゃんは海の無い街に生まれたから、渚というものを知らない。海水浴場には行ったことがあるけれど、それが「なぎさ」だとは思わなかった。
あたしは、あれを渚だとは、思わなかった。
渚ちゃんは、そんなんじゃない。
あたしはときどき渚ちゃんになる。びくびくしたくない夜、渚ちゃんになってワインをのむ。大丈夫な、渚ちゃん。
(444書・テーマ「海」)