「貴女へ」
貴女はひとをねらうようになり、
飛んできた羽虫を虫を叩き潰すのが怖い自分は臆病だと云って泣いた、
という内容の詩を書いてみせた。
私は、本当は貴女は虫を潰せると思った。
貴女はきっと虫を潰せるでしょう
ううすらと困惑してみせる唇のかたちの後ろに
無表情で冷静な平然とした貴女が居ることを私は知っている
困りました、どうしましょう
そう貴女は云うよね
わたしが悪かったんです
謝罪はそれ以上の追随を許さないという手段だ
でもそれを責めたいわけではなくて
貴女はひとをねらうようになり
私を嫉み始めた為去っていった
私は淋しい
未練があるんです
胸がからっぽだし
おなかが痛い
貴女のしたことよりも貴女が盗ろうとしたものよりも
私は貴女が去ったことが淋しい
人間のことを忘れたら楽になれる。
元々私の生命になんの関わりのある存在だったのか?
思い出せ、その無関係性。
(初出 『如雨露の涙』)