Komma usw.

背後にクロチネさんがいる。

王木亡一朗『金字塔 the apex』

 

   
 表紙、強そうですね。
   
  
『金字塔 the apex』
      

  • 当てつけ(I guess you might as well)
  • あのころ(time goes by
  • レモン/グラス(Lemon/glass)
  • 処女同盟(The Mutant)
  • 37フラグメンツ(37 Fragments of a Chronology of Dance)
  • グッドモーニング、ストレンジャー(Good morning,Stranger)

   
 kindleで読みました。いつも何処かハートフルなので、王木さんは良いひとの作家さんなのだなあと思います。が、暴力的な描写や性的な描写が交じると、王木さん! そんなの書いて大丈夫?? とどきどきしてしまう。勝手にひとのことを決めつけて何を考えて読んでいるのでしょう。実は意外と(意外なのか?)黒い描写もあるのですよね。でもなんというか、人間味が、良い方に振れながら浮かんでくると云うか……。
 でもやはり、殆どの王木亡一朗小説はハートフルで締め括られるような気がします。人間が人間をしていて、創作めいたあざとさが無いところが好き。著者が元々ギターを弾いたり歌ったりなさる方だからか、音楽の描写になるととても広々とした心地がして、それがとても良い。


 あっ、そう云えばそんな善き人と信じ込んでる王木亡一朗氏のtwitterとnoteのアイコンがのことちょっと怖いんですよ。じゃなくて、noteも面白いんですよ。まあ私はそのアイコンの柄を最初怖がっていましたが。


  note.com


     

     

      



       

『顔の中の赤い月』

    

戦闘を前にして、人間はただ自分の力で自分の生命を守り、自分で自分の苦しみを癒し、自分の手で自分の死を見とらなければならないということを彼は知ったのだった。各人は、各人の水筒の水と同じように自分の生命を自分という革袋の中にたくわえなければならない。人間はその水筒の水を他のものに絶対に與えはしないし、その生命を他のもののためには決して使用しはしないのである。もし自分の體力が少しでも仲間に劣るところがあるならば、彼はただちに戦闘の落伍者であり、死が彼におそいかかるのであった。部隊全體が餓えているとき、自分の食糧を他人に與えることは自分の死を意味した。そして戦友同志が一つの食物を間にはさんで、にらみ合うのだった。


 
 


      

      

『暗い絵・顔の中の赤い月』

 

 読んでいる。
 1950年頃には、兵士から復員したひとが何人もいたというわけだ。「殺したの?」と例えば父に問えば肯くかも知れない時代。どんなかおをして?

     

《いかに俺のこの感情が人間否定であろうとも、この感情はほんの瞬間的なものにすぎないのだ。俺はその他の時間には、いつものように、曖昧に人間を肯定して、飯を食い、歩き呼吸している人間だ。》と彼は思った。しかし、これらの物を食ったり歩いたりしている人間が、愛を知らないということはたしかなことであると彼は歩きながら考えた。あの戦闘の場に置かれたとき、やはりこれらの人間は俺と同じようにただ自分を守る以外は、ないだろう。食糧のためににらみ合うだろう。戦友を見殺しにするだろう。……


 舞台は戦後の掌編なので、戦争の話は怖いからイヤだ、とか思っているひとも読んだら良いと思います。

      
       



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