Komma usw.

背後にクロチネさんがいる。

prototype #

 幸せみたいなのは分からないけれど、好きと嫌いはあります。

「私、イビツなの、好きです。好きだと思います」
「だからきみの小説にはクロチネさんしかいないんでしょう」
「そうかも知れません。でもそれが何か欠陥であるか、私は解らないんです」
ゆがんでいて?」
ひずんでいて」
「好き?」
「どうして壊してしまうんでしょう。すごく好きだと思ったのに」
「無意味な反復運動をする癖があるね、きみは」
「それは昔からです。鑢が好きですね」
「鑢で歪にしているのは、可笑しいね」
「結局可笑しいと思うしかないです」

 幸せみたいなのは分からないけれど、好きと嫌いはあります。


 Ende.

    

(再録)   


       https://www.instagram.com/p/BurbI2rFKJl/


    

     

「犬三匹と果物ナイフ」

犬三匹と果物ナイフ


犬三匹と静かに歩く貴婦人が
真夏の夜を真っ直ぐに横切ってゆく

一万、跳んで、ソー、スウィート
一方、跳んで、ソー、スウィート
駄目だなあ、勘定が合わないなあ

何度も数えるパーラーで
果物ナイフを握り締め
閉鎖前には帰り たくって
泣きそうになっていることは知らないふりふり
ふりふりスカートの破を伸ばして
果物ナイフをまた握る

ウォッカにグレープフルーツ絞って呑んだろ、その分数えてないよ」
ああ、そうだっけ

一万跳んで、ソルティ・スウィート
レモンは絞ったんだっけ
違う、齧ったんだったかな
ああ、もう、泣きそうだ
 
果物は彼が剥いてくれるもの
そうと決まっていた筈なのに
彼の指から甘い果汁だらだら
差し出されるのを咬むものと
思っていたのに今になっては
パーラーで勘定を数えている
こんなにみじめになるなんて

みじめにみじめにじめじめに惨めじめじめじみめに

犬三匹と静かに歩く貴婦人が角を曲がるまで見送った
貴婦人はこうべを垂れていた
犬三匹は血統書付きのかおをして
やはり貴婦人に倣って下を向いていた
きっと何かの葬列なのだ
弔って欲しい果実の甘い記憶

ナイフを空気に突き刺すと
すこしだけ呼吸が出来る気がする
白桃桜桃ラフランス桜んぼデラウェアいちじく
ざくろラズベリィいちごいちごいちごいちご
春の始めから秋にかけて
果物はみんな
彼が食べさせてくれたものだった

今ではひとりパーラーで
果物ナイフで刺しころす
ひとりになった夜だった



         

(2008.10『箱詰め女子』)



      

『デザイン&文字の見本帳』

 

デザイン&文字の見本帳

デザイン&文字の見本帳

 
 Amazonで中古本を購入。
 ぱらぱらとしか読んでいませんが、かなり詳しく書かれていて、アキやカーニングなどの基礎知識、フォントの種類、文字置きのデザインの要など面白そうです。kindle版もありますが、技術書は紙書籍版で持っていても捲ってふと何処かに目を留めるのが長所なので。予算が組めたら、旅先などにも携帯出来るkindle版も欲しいです。



        

「睡夢」

睡夢


魚が眠るということを理解できない侭死んでいた三十二歳、老いてゆく夜
屋上から見下ろす世界、それは深海
水底にしんしんと降り積もる魚のなかで私は倒れていた
桃色の魚が黒くなり
青色の魚が赤くなり
それが魚の眠りということらしく
魚は嘘をつく私を許してくれた
私は陸上に居たころ嘘つきであった
水に入ったときからその生温かさに抱かれ
かれらは私を許してくれた
もうここでは嘘をつかなくていいんだよ
もうここでは罪悪感が水に流れて去っていくのだよ
私は目を閉じ泥水を肺に吸い込み
沈んでいった
もっと呼吸の出来るところへ
もっと呼吸の出来るところへ







     
     


 



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