雲のなか泳ぎゆく。碧空に包まれながら、白いなびきをやわらかに追い掛ける。向きを変えて背泳をすれば、一面に空。その向こうに視えないけれど、きっと宇宙。闇のなか星々の海。
いつか見た変わった魚の泳ぎのように、ひゅうっ、ひゅうーっと蹴伸びで泳いでみたりもする。面白い生き物になれたような気がして嬉しくなる。地上はもう遠く。空は酸素が薄いので、呼吸が少しスライドガラスのようになる。
誰かの白い腕が見えて、そっと手を取ると、そのひとと私は一対の翼のように、違うたゆたい方に変わる。暫くして、じゃあね、さよならね、と微笑んでその手を離す。さざれ雲にまた潜る。遠く地上の方に見える虹。
醒めない夢。
雲を泳ぐ。
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