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背後にクロチネさんがいる。

『害虫』

 『害虫』塩田明彦監督作品・2002・邦画

 

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 両親との関係も不遇で不登校になってしまうサチ子(宮崎あおい)の姿が当初描かれ、これはサチ子がいじめられてしまう物語なのかな、と思いきや、全然違った。サチ子は自らの意志というわけでもないように見えるが、確実に自分の足でドロップアウトしてゆく。途中で出合った万引きや当たり屋などをやらかしている少年(沢木哲)は暴力を受け、知的障害者らしきキョウゾウさん(石川浩司)はサチ子と一緒に火炎瓶を作り放火。元々、サチ子は小学6年生のときの担任(田辺誠一)と恋仲(?)に近い関係にあり、担任は小学校を退職していた。サチ子が再び登校するように働き掛けた夏子(蒼井優)が恋をしていたクラスメイトはサチ子に告白し、サチ子はそれを拒む(このシーンが素晴らしかった。私もこの行動を取ってみたい)サチ子の母親(りょう)が恐らく好感を抱いているであろう男性は、サチ子を襲う。
 つまり、サチ子がドロップアウトしてゆく過程というより、サチ子の周囲がどんどんサチ子を原因として壊れてゆく、という云うなレバ犯罪が頻発し、誰もが堕ちてゆく物語なのだった。

 むしろ、同級生たちは、サチ子に関して「この件は触れないようにって昨日みんなで決めたじゃん」と云い合ったり、いじめの映画ではない、と思った。

 蒼井優(夏子)は襲われている宮崎あおい(サチ子)を助けたあと、りょう(母親)に「可哀想です。あたしたちまだ中1です! こんなの可哀想過ぎる」と訴える、しかしその言葉はサチ子に対してどれほど痛い科白だっただろうか。

 監督は「サチ子こそが『害虫』であり、ゴジラである」とコメントしている。でも、害虫は望んで「害」虫だろうか? ゴジラは自ら「破壊」の存在であろうと望んだだろうか。

 音楽担当はナンバーガール。実は世間的に好評らしいこのチョイスは、私はあまり馴染めなかった。何故このシーンでロックミュージック? と少し白けた。なんとなく、『リリイ・シュシュのすべて』(同じく蒼井優前髪時代)の音響のようなものの方が少女というものに寄り添っているような、そういう比較をしてしまったのだと思う。が、私はナンバガをあまり聴いたことが無いので、そう思ったのかも知れない。そうは云っても初見で良いと思わなかったのなら、ナンバガを知っているからぐっときた、なんていうことがあってもそれはそれで違うと思う。

 救いは無い。
 それは少女期に於けるものでも、不登校や不良に於けるものでもなく、ただただ世界は、ある意味、救いは無い。サチ子は最後まで堕ちてゆく。

  
 ちなみに『害虫』も『リリイ・シュシュのすべて』も、蒼井優が前髪を下ろしている時代の貴重な作品。


    
     
    



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