Komma usw.

背後にクロチネさんがいる。

『わたしを離さないで』

 

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

 カズオ・イシグロ氏がノーベル文学賞を受賞したタイミングで読むとちょっと気恥ずかしながらも読みました。

 物語の装置はどうであれ、舞台はどこであれ、設定はどうであれ、愛情あるふたりというもののぬくみとその描写が胸を射つことを文学から感じるときの感覚は変わらないことを再認識しました。つまりは舞台も設定も発想も面白い本であると云っているのと同時に、この本に存在するのはちいさな──ちょっと仲の良い──男の子と女の子の魂のようなことで、それはただ白くて四角いほんの12頁ほどの(例えばです)文字も書いていないようなブルーナの絵本(例えばなのです)で出合っても変わらない無垢な愛情を湛えているのだという感覚のまま読みました。『わたしを離さないで』に見つけた愛情が、うさこちゃんの瞳と同じだけ純粋だ、だなんて読む前には思っていたでしょうか、いや思うまい。しかし小説の序盤からその感覚で胸がいっぱいになりました。


 この本は子どもの頃から題名だけは知っていたので、自分にとって古典になっていて、ときどき現代作家が書いたのだと気付かされる一節に当たると不思議な気分になります。「わたしを離さないで」という単語が良いのでしょう。



 全然どうでも良いのですが、カズオ・イシグロノーベル文学賞受賞の際に家人が「オカズ・オイシイ」と云い出して家でちょっとした流行語になりました。文学性……。

    
       


   



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