三月十一日姪二歳
ひとが死に知るつど吾も死なねばと思ふ私がまた生きてゐる
無償の愛は血にも知らぬが吾死ねば祖母を亡くしてしまふ気はする
蘇生した弟よきみは兎に角もいつも希みの方角へゆけ
姪は今日二才になつて我迷ふ、記憶されないうちに消えねば
やはり又他人の自死を遠く知り吾も死なねばならぬと思ふ
他人の死吾の人生選ばれた使命などとはとても云へない
呪ひ怒り恨みより祈りなのだらう私の腹に煮える湯の悪
黙祷といふより二歳児が初めて食べたチョコレイトそれが希望
だいじょうぶ繋がると伝へ続けた日五時過ぎにやっと怯へられた
福島に再建に行く弟に乳児の甥の健康を問ふ
電気が水が停まらなかつた福島にゐなかつただけで懺悔するひと
ひとは何処かでなんかで死ぬし自死もする吾も死なねばとはまた思ひ
姪と甥が喪服で伯母の葬式の控へ室にて退屈をする
夢想より想像と云ふより予想適はぬ迷ふ生きる不可ない
生きたかつたひとと生きたことを伝へるひとと薬を致死量図る吾の
人形を貰ひ真白いほっぺたにべたべたチョコを付けた二才児
その土地に居なかつたのだ、あの日から若き表現者の詠む余生
午前には災害訓練鳴り響き同時にごみ収集車も鳴つてゐた
淡々と揺らがなかつた今日の日に歌を詠むのは唯自己嫌悪
大切を理解したいと思ふ日