Komma usw.

背後にクロチネさんがいる。

Tw300字ss「乳飲み児の思いで」

 おくるみを縫ったことが二度ある。ダブルガーゼの布製で、姪たちのものだ。もし冬だったなら極細ウールで編んでいただろう。考えると少しうっとりする。私は子を生まないが、手芸が好きだ。たぶん、乳児も幼児も好きだ。おくるみなんて手作りしても、ほんの一年使うくらい。若しくは白い繊細なレース編みのベビードレス。それを手編みして母になったひとを知っている。そんな苦労する編み物を着られるのもつかのま。
 私の母が「これだけは捨てられない」と小さな黄色い長靴を見せたことがある。きっと私が履いたもの。それもつかのま。
 母が子を愛するのとは別の心で、母たちは赤ん坊と過ごした日々を大切に抱き続けているような気がする。

(300字)

 

     

    

海老沢久『美味礼讃』

美味礼讃 (文春文庫)

美味礼讃 (文春文庫)

『美味礼讃』はブリア・サヴァランではなく、日本に〝本物のフランス料理〟を齎した人間、辻静雄の人生についての本。お料理のことを巧く書いてある本はいつ読んでも面白くて良いです。しかし、大層なお金が動く話なので緊張したりもしました。日本で洋食を食べることはこれほどの困難ののちのことなのか、と今まで思ってもみませんでしたね。

 子どもの頃、両親の本棚から拝借して愛読していた『楽しいフランス料理』をまた読み返したくなったりもしましたが、愛読はしていましたがそれを読んで何かフランス料理を作ったわけではない半生(私の)です。

帝国ホテル料理長の楽しいフランス料理 (講談社文庫)

帝国ホテル料理長の楽しいフランス料理 (講談社文庫)



    

円城塔2冊

『リスを実装する』

 

リスを実装する (Kindle Single)

リスを実装する (Kindle Single)


『世界でもっとも深い迷宮』

 

世界でもっとも深い迷宮 (Kindle Single)

世界でもっとも深い迷宮 (Kindle Single)


 両方、Kindle Singleというシリーズの短篇です。短篇でこそ実力を見せつけられる作家になりたいなあと思いました。現代でいうと誰でしょう。近代作家の短篇は本当に良いと思うものが幾つもあります。現代は短篇が売れない時代だと某ブログで読みましたが、何巻も何巻もあるおはなしは私はあまり好きではないかも知れない……。っていう、内容に関係の無い所感です。

第六十回tw300ss遅刻テキスト「祝」

 知人の結婚式の帰り道、式のあと受け取った祝福の花を、道すがら川に投げ入れた。
 たぷとぷと浮き沈みしながら花は濁った水のなか去ってゆき、その浮き沈みを見ていると私の過ごす日々のように感じてしまったが最後、川の薄い緑色の水が流れゆくことも今日鋏で切られたであろう花がそして私から去ってゆくことも、すべて取り返しが付かない。橋の上から、川に石を落としてしまうようなことだ。帰ってこないのだ。帰ってこない。いや、花は私が手放したのだ。
 たぶん、結婚というものはそういう事象ではない。今日は何故結婚式などに出席したのだろう。過去の夫を思い起こした。今日の花嫁の所為でもないのに、思い出したりしてみるのだった。


(tw300字ss 第六十回「祝」遅刻テキスト)


        



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