Komma usw.

背後にクロチネさんがいる。

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』

 


 村上春樹にしてはなんとソフトな……と感じたのは私個人なのでしょうか。この本には友情があって、快復する孤独があって、可能性としての暴力は友情や愛情のうえで共有されるものであって、それが新鮮でした。村上春樹は総じて暴力の作家(つまりは暴力と闘い続けるうえで執筆を続ける作家)という印象があるので、勿論それは快復なんてしない友情の無い孤独で、暴力は個の人間ひとりが孕み自分自身と相対して闘い続けるものだ、という小説作品を読んできたつもりでした。この本には友情がある。否、他の小説にも友情はあった、それはもう、「僕」と「鼠」だって友だちだった。けれど同時に「僕」も「鼠」も孤独だった。
 多崎つくるは、その質の孤独には陥ってはいないのではないだろうか。
 そういう意味で、村上春樹作品としてはソフトタッチで、いちげんさんでも尻込みさせない、そんな印象を持ちました。


    



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