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Komma usw.

背後にクロチネさんがいる。

「火は綺麗」こみちみつこ

「火は綺麗」こみちみつこ


夏の夜に湧いてでた虫を
わたしは殺そうとしました

振りかざした手を打ち下ろすことがどうしてもできず
あなたの手に任せました
虫を叩き潰すこともできない
臆病で非力なわたしの手
わたしは隠れて泣きました

わたしの手が直接に
それを殺すことがどうしてこんなにもおそろしいのでしょう
この畏怖はどこからくるものなのでしょう

そのひとがわたしの名前を呼んだとき
その声があまりに優しく耳に染みたので
不意にそのひとを殴り倒して遣りたくなりました

だれかを殴ったことなどなくて
どのようにすればそんなことが可能か解らないのに
殴って遣りたいと望むことはできるものです

彼がわたしに打ちのめされて
情けなく頼りなく絶望に落ちたら
優しく抱きあげて
慰めて励まして奮い立たせて
再び立つ力を取り戻してあげたいと願いました
わたしでは叶わないことです

そのひとが太陽のように崇めている
女の手が
易々と虫を叩き潰すのを
わたしは見たことがある

煌煌と燃えつづける
あの神のごとき太陽には及ぶべくもないけれど
蝋燭の先で燃えている
ちいさな火ほどの熱と光が
わたしにだってあるのです

わたしに焦がれている
あなたの手を焼くぐらいのことなら
迂闊にも飛び込んできたあなたを
焼身させることなら
できるかもしれません
ちいさくか弱く震えていても
確かに燃えている火なのです

夏の虫は自ら火に飛び込んで死ぬといいます
諺に歌われていることです
飛び込まれた火は或る諦めをもって
恐怖に泣きながらも優しく
あなたを焦がすことを
身をもって知るでしょう



(2011.08.20 合評合宿 in Necotoco 提出作品/こみちみつこ)



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