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Komma usw.

背後にクロチネさんがいる。

『経験的教育時代』

 経験的教育時代
 

 講堂は円形をしていて、床はメープル。
 回転してゆくものはまるで時計の針。
 世界の時計は標準時。
 あともう少しで体育の時間も終わる。
 落ちる。
 崩れる。
 砂のように崩れ、落ちてゆく。

 講堂は円い部屋で広い。扉の部分だけ、円周の部分が凹んでいる。
 講堂で薙刀の練習をする。覚えた順に決まった型に薙刀を振るのだが、型が決まっている為に難しい。
「構え、構え、構え!」
 師範が少々私の右腕の傾きを正した。
 ひゅぅっ。ひゅっ。
 空を切る。
 落ちる。
 崩れる。
 砂のように崩れ、落ちてゆく。

 5分前の、講堂の周りをランニングした記憶が回転。わりと長く走ったので今、汗が冷えている。えっと……何分間走だっただろうか。数人は途中で座り込んでしまっていた。掛け声は出さずに走った。大きな輪に走るように注意されながら、講堂を周回した。長く感じた。
 体育の準備運動をランニングで、それで済ませてしまう仕組みだった。
 だった筈。
 落ちる。
 崩れる。
 砂のように崩れ、落ちてゆく。

 最後に柔軟体操と深呼吸をした。
 期末なので、単位が取れるかどうか気にしている生徒が、師範助手の周りに群がった。10分休みのあいだに着替えなければいけないのに。そんなことをしていたら時間は無くなってしまうのに。時間割を決める教師が愛情のように作った配慮が欠けていて、体育のあとは異性の教師の講義は入れないように工夫したから枠決めが大変難しかったそうだ。どうでもいいわそんなもん、としか、そう云われても思えなかった。
 教室に走って戻って着替える。廊下は走らなーい、という物凄いテンプレート注意の声を掛けられえた。
 落ちる。
 崩れる。
 砂のように崩れ、落ちてゆく。

 次の時間は哲学で、しかし担任が休暇を取っていた為自習になった。試験前なので、一応ノートを出して友人との雑談も勉強したことについての話に傾きがちだった。
「経験主義は?」
「えーっと……」
「雪?」
「はぁ?」
「だから、ラッセル車
「あ。ラッセル。懐疑主義。……はぁ。そのヒントは寒いなあ」
「寒いヒントがあるか?」
「ギャグだったの? 懐疑主義のラッセルでしょ」
「あたりー。まあ、これで大問いっこは出るよね」
「休み時間にノート、コピらせて」
「10分休みだっけ?」
「いや、5分以上は無いでしょ」
 下らんことばっかり云うとらっせる……云って、いらっしゃる。
 玉子焼きの匂いがすると思ったら、後ろの席の子が早弁をしていた。
 私も空腹だ……。
 お昼ご飯の時間はいずこ。
 落ちる。
 崩れる。
 砂のように崩れ、落ちてゆく。

 世界は5分前に出来た分以外は、後ろの世界に送られる。去年夢にまで見た哲学の博士課程まで終えた筈なのに、私は今、試験勉強をしている。こんな世界は。最初からやり直すには。えっ?
 ……ええっと。
 落ちる。
 崩れる。
 砂のように崩れ、
 落ちてゆく。

 5分間。
 
 神様が、世界の壁に掛けた時計の愛が、欠けている。
 なんで、5分以上は貰えないんだろう?

 哲学、試験時間は90分間。
 いや、5分。
 えっ?
 え?

 講堂は円形をしていて、床はメープル。
 午前12時の短針が、折れた。



 

 



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