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背後にクロチネさんがいる。

「火は綺麗」小倉拓也

「火は綺麗」小倉拓也


生きることは加速すること
沢山の時間が私たちの背後に幽霊となり
地べたを這う背を脚を後押しをする
その摩擦に焼かれて
私たちは火炎を上げながら
消し炭になる

「そんなふうに生きなさい」と先生は言った
その教訓さえ生まれた時から
私たちの一部であった

道徳の時間に読んだ三つの逸話は
どれもみな最後には
人が死んでしまう話で
この時代この国の大人たちは殊更
人は死ぬということを
子供たちに伝えなければいけないと
考えているようだった

私は子供だったけど
全ての子供がそうあるように
生まれつき大人でもあったので
私のなかにも幾ばくか
そんな義務が感じられ
反駁のため
人が死なない可能性を探ってみたりした

「はい」という返答が
自らの喉から最も美しく響く時を
生徒らは聖歌隊のように
中空を見上げ待っている

先生は、次の逸話を教えてくれる
「はい」と答えるあなたは
生徒の中で一番綺麗な声をしている
私はそう思う

私はあなたの美しい発声を待ち望んでいる

火と死の逸話は何のためにあった?
倫理のため?
生活のため?
説得のため?
懐柔のため?
それとも高揚のために?
たいくつを紛らわすために?

あらゆる意図と経緯を超えて
私はあなたの声を待つ
私は子供と呼ばれていて
けれども話の中の火など見えない



(2011.08.20 合評合宿 in Necotoco 提出作品/小倉拓也)


火は綺麗

火は綺麗



ネコトコ合宿合評会(よく呑んだ)

20110820152923

    
   
     



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