Komma usw.

背後にクロチネさんがいる。

chou=chou

この写真が、どうにもCDジャケットを想起させる。

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呼吸

呼吸


 自分が被写体である写真を重ねるのは、厚かましいかも知れないけれど……
 ただ、ずっと前にはてな乙女の他の方もイメージフォトを撮っていらっしゃったのを思い出しました。
(ちなみに、この場所に入り込んで写真を撮ったのは、危ないって云われるから秘密、とか云って逃げたなあ……)

はてな題詠「短歌の目」2017年1月

はてなブログ題詠「短歌の目」1月参加です。

tankanome.hateblo.jp


11月はこちら(12月は締切に寝過ごしました……)
短歌の目 題13回 11月 - Komma usw.
では1月です。


題詠5首

1)編
編み込みの練習のため毎時間うちのクラスに来る同級生

2)かがみ
いつだって鏡の奥には夜がある闇の手前で誰かを写す

3)もち
もちもちのほっぺなのねとつっつくと、「たべたらだめよ!」声上げる姪

4)立
立春は光がすうと持ち上がりレースの風が頬を撫でる日

5)草
風にこの手をかざして感じる息のよう草の想いのように生きよう
 (「草の想い」より)
 

草の想い

草の想い


テーマ詠「初」

花櫛のまだあげそめし前髪になるのか不安な九歳の春

呼び声の初々しさがいとしいと思う彼女は今日から義妹いもうと

初物の刺身と酒を並べ置き仏間でひとり饗宴のとき

時折に立ち止まったらいつまでもいつも何処かで初心うぶでありたい

黙示録絶対的に破っては繰り返し繰り返し繰り返し劫初



https://www.instagram.com/p/BMRRft2jDLl/

『ウソツキムスメ』より試し読み♪(2)

 ウソツキムスメ


 試読記事続きです。

「ナナンタさんの鈴の音」

 ナナンタさんは、何歳なのだろうか。
 わたしがお母さんの突っ掛けを履いた為に道で転んで、アスファルトの道路だったので擦り傷ができて酷く血が出たとき、ナナンタさんは小走りに駆け寄ってわたしを支え、自分の家の玄関先に招き入れてくれた。そこは祠の後ろに隠れた寂れた家なのだが、ナナンタさんはべそをかいているわたしのほっぺたを両手で挟んで、
「ひなかちゃん、痛い?痛かった?だいじょうぶ、だいじょうぶよ」
 と、云いながら、傷口を消毒してくれた。
「痛い?」
「痛い……けど、へいき……」
 ナナンタさんはランドセルを下ろすのに手を貸してくれ、桃色の紐の付いた銀色の鈴を家の奥から出してきて、わたしの手にのせた。
「あげるわ」
 わたしが手を揺らすと、鈴は、ちりり、と鳴った。
「いいの?」
「もう痛くならないように、怪我をしないように、ひなかちゃんにあげるわ」
「……ありがとう」

 ナナンタさんのことは、そのあたりの子どもはみんな知っていた。ナナンタババア、と呼ぶ子もいたし、ナナババさん、と云い慣らす子もいたけれど、わたしは、ナナンタさん、だと思っていた。


「春眠」

「『──花の咲かない頃はよろしいのですが、花の季節になると、旅人はみんな森の花の下で気が変になりました』」
 小さな声を出して読んでみる。もう一度、繰り返してみる。
「気が、変に、なりました」
 私はいつからか気が変なのかも知れない。
 外は春特有の白っぽい夕暮れだった。私は飾り窓の傍の椅子で坂口安吾を暗くなるまで読んだ。
「気が、変に、なりました」
 夜だからワインでも飲むといいかも知れない。ロゼのスパークリングワインがいい。
 冷蔵庫からそれを出してきてグラスに注ぎ、長いストロォで飲んだ。随分旧いストロォで、ぴんく色をしていて、途中でト音記号の形に曲がっているのだった。ワインはあかく、ぴんく色のストロォのなかを回転しながら私の口許まで昇ってくる。ト音記号に回転しながら昇ってくるワインなんて、気が変だ。
「気が、変に、なりました」
 私はもう一回くちに出して、そう云った。


 『ウソツキムスメ』私家版は22日、文学フリマ京都に(於:京都市勧業館みやこめっせ)にて600円で発売開始、2月あたまにはAmazonにて、紙書籍版と電子書籍版とを販売開始予定です。14歳〜22歳のあいだに書いた8篇を収録し、文庫化にあたって加筆しました。どうぞ、ご注目くださいませ。


 


   


    

 

『ウソツキムスメ』より試し読み♪(1)

 文庫化にあたり加筆した新刊『ウソツキムスメ』より、部分引用を記載します。ご試読くださいませ。

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アイネ・クライネ・ナハトムジーク

 テーブルの近くに落ちている、つめたい日溜まり。
 こころのなかで呟く。
(この家には微笑家がうようよしていやがる、)
 ああ、これは、蒼也くんの声だ。
 
 腐乱と憎悪。


  □


 私は部屋を出て、白い廊下を歩いて別の部屋の扉を叩いた。
「左近です」
「ああ。お早う。彼女の調子はどうかな?」
 部屋に入ると、先生が振り向いて云った。私は細く息を吸い、落ち着いた口調を心がけて報告した。先生には優秀な学生だと思われたい。
「比較的元気です。現在のところ認められている人格はふたりです。十八歳の少女である赤岸もな美、それから蒼也という十一歳の少年」
 私が云うと先生は可笑しそうにわらった。
「残念ながら、それでは成績は、可しかあげられないだろうね。ほんとうは、三人居るんだ」  
「え、だって、そんな……」
「人格はふたりじゃない、三人居るんだ」
 モナミ、蒼也。それから、
「……私は誰ですか?」



「海に流す」

「私が最期に逢ったのよ。その夜あのお店で食事をして、別れた直後。車に乗って、突っ込んでいっちゃった」
 彼女はふわふわと中空を見つめ、不自然に赤みの差した唇が言葉を紡いだ。
「あのひと、今、何歳なんだろ、」
 彼女はそれ以上、それについては喋らなかった。僕は一瞬かっとなって「あのひと」に烈しく嫉妬した。でも、黙っていた。

 僕たちは堤防の先端で、低い空からこぼれる水が、海のかさを眼に見えない速さで増やしてゆく様を眺めた。僕は海底に沈む、「長くて高くてかっこいい車」を想った。それから海に沈んでいる他の沢山の品々のことも。豪華客船とか、宝石とか、ラムネの入っていた薄緑色のとか。でも海は広いから、そんなものは微量にも満たない。
「いくら海が大きいからって……、」
 彼女が云う。怒るというより傷付いたような口調で。
「あんな車で突っ込んじゃいけないと思う」
 白いやわらかな頬を涙がつたい落ちた。
「どうしよう……」
 彼女は躰を曲げて涙声で呟いた。
「どうしよう。私は嘘ばかりついている……」
 彼女は僕の首に腕をまわして、いっそう泣いた。
「このつけはいつ回ってくるの?……そう思うと怖くて怖くて、それを先延ばしにするためにまた嘘をついているの。このつけはいつめぐってくるの?罰が与えられるのが怖いのよ。このつけはいつめぐってくるんだろう……」
 僕は彼女の傘が地面に落ちてしまったので、自分の傘を彼女の方に差しかけた。困惑して何も云えなくなる。砂の上に転がった派手な傘。

「正直な目なんて……」

 僕はなんと云おうとしたのだろう。
  

「嘘をついたことある?」
 と、彼女は訊いた。バス停の屋根付き待合所のベンチに並んで座って、泣き止んだ彼女は僕の肩にあたまを凭れさせていた。
「あるよ。勿論あるよ。いっぱいあるよ」
 僕は答える。
「いちばんはじめに犯した罪を、憶えている?」
 彼女は訊いた。
「一番最初?」
「生まれて初めての罪、」


     



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